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episode - 4「夜華」

サハラ

2019-01-29
文章
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[ シナリオ:ネット配布 『夜華』 ]
side:朝霧

年が開けてから3回目の朝日が顔を覗かせた。
朝霧が朝食に招くため主のアイシャ嬢の部屋を尋ねてみると、そこはもぬけの殻だった。
わずか数分前、アイシャは支度を済ませて自室から出ると同時に、朝霧が去年の夏に見た夢やホープタワーの事件、
屋久島での出来事と同じように、非現実的な理不尽な現象によって異空間のサーカスに誘われた。
そのままフラッと行方不明になってしまったのだった。


堅実な朝霧は、変化を臆し、それを苦手とした。
そんな彼女がある種の依存を持つ家を離れ、今までずっと持続され続けた生活環境を一新したのは、
一世一代の冒険に出る様なものであっただろう。
田舎から都会に移り、それまでの自分を一切知ることない人々に囲まれ、行儀よく明るく振舞いながら仕事に集中した。
帰宅し真っ暗な部屋が彼女を迎えると、そこから家族の存在感のない孤独な空間で、朝まで出勤の朝までを過ごした。
たとえ慣れぬ生活や人間関係に疲れ果てて寝過ごしても、普段頑張っているからと労いを持ちやんわり声を掛けてくれる母や兄弟はおらず、よそよそしい朝日が目を眩ませ、朝の空気があざけりながら彼女を無視し過ぎていくようにしんと漂っているだけだった。
そういう時間を朝霧は何も考えぬようにして目を反らし、顔を背けた。そして仕事に集中した。
心が受けているものを意識せず、私情を挟まない彼女に対し周囲も知る由はなかった。

自分自身も見放して支えも救いも及ぶことのない中で、ただ頬を撫でるような慰めとなったのが、
薔薇園アイシャの子供のような無邪気な人柄であった。
特別に遇する事はなかったが、それでも寂しい心にはその子供のような無垢さと美しく眩い笑顔は優しく響いた。
何より大きかったのは、専属の使用人として彼女と多くの時間を過ごせていたことだろう。
アイシャは朝霧を女友達のように扱っていた。
およそ半年の間に朝霧にとって薔薇園アイシャは、同性としてその美貌に憧れを抱くだけでなく、離れて暮らす家族に成り代わる親しい存在となっていた。


半月程が経過した。
アイシャ嬢の捜索は一向に成果を見せることはなく、役割をなくしていた朝霧は長期休暇と言う形を取らされていた。
朝霧はまた、見て見ぬふりをしてやり過ごそうとしていたが、さすがに今回は心の痛みを感じていた。
ただ、親である社長や夫人が何よりも辛い立場であるため、分を弁える努力をしなければならない。
むしろ使用人たちはこぞって、心に深手を負った主達をいたわるべき立場である。

ただし衝撃を度重なって受けた繊細な心では限度があり、明るくテキパキした女性からは、少し影が落ちるようになっていた。
気付く人は稀に居た。理解ある大人は干渉せず、他は軽蔑の元で積極的な同情を押し付け“あれをしたらよくなる““これをしたら良くなる““早く元気になってね“と今の彼女を間接的に無意識に否定した。
それは今まで弱みも見せず、女性の下馬評を覆し男性おも感嘆を零させる働きを見せていた“出来る者“の宿命であった。


その日は薔薇園夫人のショッピングに同席していた。
そして日の暮れた帰り道、夫人と別れた朝霧は、今年初めて立ち上げられたと言う冬の縁日を見かけ、何となく興味を惹かれて足を運んだ。
人々は季節はずれな浴衣を着てがやがやざわざわと賑わいながら、提灯と屋台が立ち並ぶ通りを行き交ってゆく。

「あけましておめでとう!ちょいとそこの道行く老若男女!アンタらだよ、アンタら!
いやいや、年明け早々祭りで騒げるたあ目出度いねえ?」

自分が話しかけられているのかと思うぐらいに、近くで鮮明に男の声が聞こえてきた。
しかしあたりを見回しても、声の主と思われる人物も、その声を耳にしている様子の人すら見当たらない。
次の瞬間、横から肩を叩かれ
「祭りは好きかい?」と先ほどの声が問い掛けてきた。
朝霧が振り向くと横に声の主と思われる大男がいた。
その男は浴衣とも、一般的な服装とも違う、不思議な格好の男だった。
明らかに浮いているが、周囲を行きかう人たちはまるでこの男が見えていないかのように振り返ることも目を向ける事もせず通過していく。
「いいよねぇ?祭り!もっと祭りを楽しめるように協力してあげるよ!」
そう言われるや否や、気が付くと今まで周りにいたはずの大勢の人が、声を掛けてきた男と共に瞬時に姿を消してしまう。
そしてどこからともなく、再び先ほどの男の声がした。
「ああ、ひとりぼっちで祭りを周るのは寂しいよねぇ?遊び相手を呼んであげたよ!」
すると、急に真横に人の気配を感じるや否やいつの間にか視界の隅に見覚えのある人物、望月恒介を見つけた。
望月もほぼ同時に振り向いていた。

「そうそう!君たちがより祭りを楽しめるように面白い催し事を考えておいたよ!
ああ、どっかの自分本意な神さん方みたいに、アンタらを危ない目に合わせようとか思ったりはしてないから安心しなよ。
ここから帰る方法は一つだ。『あんたらがお祭りを楽しむ』事ッ!
あ!ひょっとして祭りの楽しみ方が分からない奴がいちゃったりなんかする?!
大丈夫大丈夫っ!祭りといえば友達と出店巡りだよ!
どんな生真面目で祭り嫌いな奴でも、お祭りらしく屋台さえ回ってちゃあんと利用してくりゃあ、面白くなる様にしてあるからさッ!
けど ここは要注意!花火が上がるまでにはここに帰らなきゃ、折角楽しんでくれても戻れなくなるからね。
そいじゃ祭り、楽しんでくれよ!」

二人が居る空間は朝霧が訪れた祭りと類似していたが、所々違う所があった。
お互い以外誰もいないのだ。そして二人はライブでもやるかのようなささやかなステージにいた。
その周囲には、鮮やかな配色の屋台が並んでいた。

朝霧と望月は現実に帰るため時間まで屋台を回ることにした。
回る屋台の決め方はじゃんけんを主にし、互いに要望を持てばそれを聞き入れて決めてゆく。
最中に薔薇園アイシャの件と、それを“今までで最も悲しい出来事“とする朝霧の心境を知った望月は、彼女へ正式に友達になってほしいと申し出た。

そうして様々な屋台を楽しく利用して祭りを楽しんだ朝霧と望月は、時間通りにステージに向うと、現実に返してもらうことができた。
ただあの謎の男はそそっかしいことに、祭りで得たものはしっかり取り上げて帰してながらに、屋久島の森に暮らす望月も、朝霧と同様に祭り会場に送った。
実際のこと朝霧を心配していた望月は、この状況を機会として、暫く彼女の支えになろうと近くにあろうとした。
打ち上げ花火が暗くなった冬空に上がりだし、足を止めて皆がそれに注目していた。

その人ごみの中で朝霧と望月は話しをした。
朝霧は未だ学生である彼が自分等の為に生活環境を変えることは良く思えない。
自分の今いる職場の仲間を、苦手意識のある来ヶ夜も含めて家族同然に思っており、望月にも今の職場の人との関係を大事にして欲しいと住込み先へ帰るよう説得しようとした。

しかし望月は頑なに聞き受けず、最終的には朝霧が得意とする料理を習いたいという体を繕い、朝霧の傍に転居する事となる。


◆ 屋台での出来事 ◆

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